天野君の鳥だより   98年9月13日〜9月15日

東京釧路航路
  今は亡き東京釧路航路・・・。これが私が乗った最後の記憶である。(2年前だけど。)東京釧路航路がなくなると聞いて最も私が溺愛している「日本で一番美しいミズナギドリ」ことミナミオナガミズナギドリに別れを告げるためにも私は「サブリナ」に乗り込んだ。ちなみにこの航路には「ブルーゼファー」と「サブリナ」の2隻が就航していたが、私が乗るときはなぜかいつも「サブリナ」だった。10回ぐらい乗ったが、「ブルーゼファー」だったことは1回だけだった。だから最後も「サブリナ」でちょっと嬉しかった。「これで最後になるのか・・・。」「サブリナともお別れか・・・。」「ミナミオナガに会えるかな?」「ハジロナギは・・・。」色々な思いが渦巻いてなかなか寝れなかった。船内には同好の志と思われるバーダーがいっぱい乗っていた。去年私と友人が10月10日頃に乗ったとき、ミナミオナガに会えることは私を含めてまだほとんど誰にも知られていなくて、友人と2人でミナミオナガ数百羽の群れやコシジロアジサシ、カワリシロハラミズナギドリなどを2人じめしたのだが、その話が知れてしまったのか今年はたくさんの人が集まってきていたようだ。そんな人たちと希望やら野望やらを載せて「サブリナ」は夜の東京湾に滑り出した。

 翌日(13日)4時ごろから甲板に立つ。早起きのお年寄りバーダーに張り合うためには暗いうちからベストポジションを獲得しておく必要があるのだ。でも結局あとから来たおばちゃんバーダーとかに強引にどけられてしまうのだが・・・。サブリナは東京湾を出たところだった。しかしこの日はどうしたことか鳥が少なく結果は散々たるモノだった。オオミズナギドリしかいなかった。しかし船の上で珍しい生き物に出会った。某Q州大学のF君だ。沖縄で出会ってお互いに同類だと認め合ったほどの狂った鳥屋である彼はこの航路がなくなると聞いてわざわざ福岡からミナミオナガに会いに来たというのだ。はっはっは、おばかさん♪さすが同類だ。義兄弟F君を仲間に引き入れ、ぼーっと海面を眺めていると大きく霧状のものが吹き上げられた。「ブロー!!」鯨類の潮吹きと言われるものだ。鳥と同じくらいに鯨類が好きな私は目を皿のようにしてそのあたりを死ぬほど見た。「いた!」灰色の背中が見える。どうやらロギング(水面に浮かんで休んでいる状態。)しているようだ。頭は丸い。ハナゴンドウか・・・?いや、背びれが見えない・・・。それにハナゴンよりでかい・・・。まさか、と思った瞬間、浮かんでいた4頭のうちの一頭がぬっと海面上に顔を上げた。その顔の先にはイルカのような嘴が付いているではないか。「ツチクジラや!!」私は無意識に叫んだ。体の後半部にちっちゃい背びれも確認できた。鼻血とかなんかもう、いろいろ出た。しかし船は動いているのでどんどん彼らは遠ざかっていった。他のバーダーはほとんど気付いていないようだった。もったいない。ツチクジラに出会ったのは初めてだったので今でもいい思い出である。と、こんどはサメが流れてきた。ヨシキリザメだ。私の鼻血に寄ってきたのだろう。(なんでやねん。)

ハイイロミズナギドリ
ハイイロミズナギドリ
鳥が全然いないから海を見ていると、今度はイトマキエイが見られた。沖縄によくいるマンタは正しくはオニイトマキエイと言う種類で、イトマキエイはそれのちょっとちっこいやつだ。ずーっと海を見ていたが、鳥はまったくダメだった。寂しくなったところに再び不自然な波が!10回も乗っていると直感でわかる。「クジラorイルカだ!!」今度は小型の種類だ。ハナゴンドウだった。クジラと言っても5mほどの小型種で、夏のこの航路ではよく見られる種類だ。どっちかと言うと南方系なのか沖縄航路ではほぼ確実に見れるが、釧路航路では冬は見たことがない。回遊しているからだろう。かわりに冬にはオットセイが私たちの目を楽しませてくれるが・・・。 結局鳥はコアホウドリクロアシアホウドリが3,4羽とアカアシ、ハイイロ、ハシボソなどのミズナギが2,3羽、フルマカモメが一羽、アカエリヒレアシシギアジサシくらいだった。しかしこの日の最大の目的は夕方6時以降にちゃんとあったのだ。

 日没後、暗くなってから見られる海鳥もいるのだ。(大げさだけど。)日が暮れて、みんなどんどん船室に戻っていく。みんなお酒を飲んで騒いでいる。一人、また一人と人が減っていく甲板で私はほくそえんでいた。「ハジロだ!」となりでおっちゃんが叫んだ。しまった、にやけてたら先に見つけられちゃった!ハジロミズナギドリである。この鳥は暗くなると船の明かりに寄ってくる習性がある。それを知っている人はこの鳥に会えるのである。まぁ、小笠原航路では昼間からバシバシ飛んでたけどね。ただし去年みたいに70羽からの群れではなく2羽くらいしかいなかったのが切ないところだが。F君、お目当ての一つハジロに出会えて嬉しそう。「福岡じゃあ、まず見れんからね。」と。彼は九州以外ではめったに鳥を見ないこだわりやさんなのだ。私の毒にあてられたのか最近素行が乱れているようだが。

 翌14日。早朝にまた甲板に出る。もう北海道の沖だ。実は最も鳥が多い海域はここらで、ミナミオナガのポイントもここだ。ここで見逃すわけには行かない。薄明るい海面には数え切れない海鳥が河のように流れていた。何度見てもこの光景は感激する。これがもう見られないなんて・・・。今思うとすごく寂しいことだ。冷ややかな朝の北の海の空気と大量のミズナギドリ。初めて見た時は声も出なかった。ハシボソミズナギがほとんどだったが、クロアシアホウコアホウもいくらでも飛んでいた。シロハラトウゾク以外のトウゾクカモメ類も普通にいる。そのとき下面が真っ白いミズナギが視界に入ってきた。その瞬間に私の心臓は3・3・7拍子を打ち始めた。(なんでやねん。)視界に映ったその姿は、空色の背中に黒い錨を背負ったミナミオナガであった。一同の大歓声。なんと美しい。私はこの鳥を日本で一番美しいミズナギドリだと心底思う。初めて見た時は本当に興奮が冷めなかったものだ。目の前に乱舞する100羽以上のミナミオナガをギャーギャー騒いでみたものだ。今年はそれよりか落ち着いて見れたが、(だって3羽なんだもん)やっぱりあの美しさには心を奪われる・・・。魚が多いのか白黒の可愛いパンダ柄のイシイルカたちがしぶきをあげて泳ぎまわっていた。彼らも釧路航路の常連だ。入港直前に京都の「500種バーダー」KさんとIさんと話した。いないと思ったら上の階から同じ光景を見ていらしたのだとか。ほかに写真家のY形氏も乗っておられた。

「サブリナ」は釧路港に入港した。再び東京に向けて出航するまでのわずか3時間の間だが、レンタカーを借りて釧路湿原の方まで足を伸ばしてみることにした。去年10月には湿原全体がまっきんきんに紅葉していて、周りの山は真っ赤っかで、そりゃあもう美しかったが、今回はまだ全然だった。去年みたいにヒシクイを探したが、まだ来ていないのか見ることはできなかった。ヨシガモがシラルトロ沼で忙しそうに採餌していた。あっという間に3時間が経過してしまい、車を返して再び「サブリナ」に乗り込む。

 12時出航。オオセグロカモメが船についてくる。餌はやらん。自分の分で精一杯じゃ。釧路から十勝港までの海域では朝と同じような種類が見られるが、数が少なくなる。やはり朝の釧路沖が最高だ。しかしまたミナミオナガがその美しい背中を見せに来てくれた。美しい・・・。ウトウが時々浮かんでいる。他のウミスズメ類は見られなかった。夏でも時々マダラウミスズメとかウミガラスなんかはいるんだけどなぁ・・・。双眼鏡で海面をみていると、なんかちっこいのが飛んでいるのが見えた。ショウドウツバメだった。渡っているのだろう。この航路ではよく渡り鳥が見られる。サギ類が飛んでいたり、ドバトが飛んできたり、キジバトなんか海に浮かんでいたりする。ほかにホオジロアカハラハクセキレイヒバリアオジなんかを見たことがある。運がいい人はエゾセンニュウなんぞを船の上で見られると言うから驚きだ。北海道でも姿見れないのに。クスン。何だかんだいってる間に十勝港に入港。埋立地みたいなとこにホウロクシギが一羽おった。港には繁殖地に帰り損ねたのかなんなのかビロードキンクロのメスが一羽浮いていて、しきりに潜ってはわけのわからんもんを食っていた。早くもユリカモメが2羽、飛んでいた。大型カモメの群れの中にはワシカモメが数羽混じっていた。成鳥もいたが、あんた繁殖はどーしたの?結局十勝港を出航してすぐに日が暮れたのでさっさと寝た。

 翌日も早くからずっと海を見つめていたが、特に収獲はなし。残念。ハイイロヒレアシシギくらいだろうか。犬吠埼にさしかかったあたりで、再びハナゴンドウの群れに出会った。他にはシイラという青い魚がジャンプするのを何度も見た。そんな感じで最後の釧路航路は終わっていった。残念な結果だったが、ミナミオナガに別れを告げることはできた。これからは船に脅かされることなく彼らも安心して渡りができることだろう。あ、でもタンカーとかはいっぱい通ってるのか・・・。

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