天野君の鳥だより   
1999年4月23日 山形県飛島



'99 4月23日

山形県飛島

 私はまだ、若かった…。いやっ、それは負け惜しみとかぢゃなくてこの時期に山形県の飛島を攻めようなんて、若かった…。

 前年のGWに初めて飛島を体験した私はあまりの鳥の多さにド肝を抜かれた。ベニヒワイスカなどのアトリ類や道路をうろつきまわる信じられない密度のマミジロクロツグミなどのツグミ類、足元の藪はムシクイ類がうじゃうじゃいて、草地にはホオジロ類がたむろする。道路沿いにはキビタキオオルリが舞い遊び、芝生になぜかハリオシギとかが居たりもした。それにこの年はRobinの当たり年でコマドリコルリシマゴマオガワコマドリヨーロッパコマドリまで出ちゃってたのである。今思い出してもお花畑に遊ぶ色とりどりの鳥に囲まれ、もうちょっとで三途の川を渡りそうになる。(危険だ…。)

 …という話を大学に帰ってから同期の友達にしたところ、ぜひ来年連れて行ってくれ、と頼まれたのであった。(…ような気がする。)しかしGWには別の予定を組んでいたのと人が多くて混むのがヤダとかいう理由でこの時期に行くことにしたのであった。

 当時、関西出身の私は春の渡りは4月中旬くらいから始まるものと思いこんでいたので、別に問題無いと考えていた。
 んが、しかし、現実は甘くなかった。この年は寒かったせいか春渡りが通常よりも遅くなっていたのだ。
 
 私と友人の「ばいかだくん」は男二人うきうきと酒田の港に向かった。「あれ?鳥屋が誰も来てないね?」と一抹の不安を抱きながらも船に乗り込んだのである。
 海上ではオオミズナギドリシロエリオオハムが何度も見られ、入港直前にウトウも観察された。ウミズズメ類を見ると北日本を感じる私。
 
 島はなぜかシーンとしていて活気が無い感じがした。とりあえず宿に荷物を置き、島を歩き回ってみた。「…あれ?」いない。鳥が居ない…。出てくる鳥はほとんどがアオジである。なんか島の鳥の半分くらいアオジぢゃないの?ってくらいアオジばっかり。キビタキオオルリも数羽しか居ない。
 
 渡りの早いクロツグミは結構居るがムシクイ類はヤブサメしかいなかった。ただ、コマドリだけはたくさん居てあちこちで姿を見せてくれた。うーん、コマドリかわいい…。アカウソオオジシギを見ながら畑のほうを回っていたらキレンジャクが何羽か居た。いつ見ても変わった魅力のある模様で大好きだ。「チリチリー」と鳴いていたので私も「チリチリー」と答えたら速攻で飛び去った。もういいよ、きらいっ(ToT)。
 
 「珍しい鳥がごろごろ居るんだよ」なーんて言ってしまった私は焦って思わず阿波踊りを踊りそうになりながら「あわ、あわ、あわ・・・」と目を泳がせながら鳥を探す。カラスバトの声を聞きながら森を歩いていると目の前にトラツグミがいたので「ほら、トラツグミ。珍しいんだよ。」とほらを吹いたが「何回か見たことあるよ。」と言われてばれてしまった。チッ。覚えてやがったかぁぁ…。
 
 「こんなときほど普通種をよく見なきゃダメ。」とか謎の説教(?)をしつつ海のほうに抜けるともうすぐ北に帰るのかはたまた東北の山中で繁殖するのかシノリガモのつがいが海上でちちくりあっていた。仲むつまじい様子を男二人で見てて変な気持ちになってもコワイので早々にその場を離れた。畑のほうに戻ってきたらグラウンドの横の並木になんかのヒタキが居た。見てみると若いムギマキだった。いやー、春渡りらしい鳥が見れてよかったよかった。

 結局この日はこれ以上の成果はなくぐったりと宿に帰ったのであった。宿ではおいしいイカなど海産物がメインの料理に喜んでいたが、ばいかだくんは箸が進まない様子。あっ、この人甲殻類とイカ、タコだめなんだっけ…。かわいそうなやつめ。彼の分のイカは私がおいしくいただきました。相利共生。(←?)

 翌日は天気が崩れ小雨が降っていた。「やった!これで鳥が入る!」
 大喜びで明け方から出撃する。…が、レンジャクの数が増えたくらいでキビタキとか居なくなっちゃってんですけど?グラウンド周辺でツツドリ見たくらいで全然昨日よりも鳥の数が減っている。うわー…。神様、そんなに僕のことがお嫌いですか?
 
 あちこちぐるぐる回ったがとにかく鳥が居なくなっているので荒崎という昨日は見にいかなかったポイントに行ってみた。海岸に出るとなんかウミアイサのつがいとアカエリカイツブリが一緒に浮かんでた。プロミナー越しに「俺もそっちに行こうかな、うふふ…」と呟きちょっと頭が壊れてきたのを実感しながらもと来た道を引き返す。
 
 ため息をつきながら松林に入ろうとしたそのとき、目の前をなんかツグミ系の鳥が飛んでって前方の松に止まった。「あれ?今のやつなんか背中灰色っぽかったな?」と顔を見合わせ双眼鏡で確認しようとするが枝に隠れて全身が見えない。とりあえず外国産の鳥かもしてないので「Who are you?」と小声で問い詰めながらにじり寄る。(バカですねー。)
 
 そしてやっと捉えたその鳥はやはり、思ったとおりカラアカハラであった。「サランヘヨ〜」とか叫びながら(うそつくな!)近寄っていくとすぐ飛んでってしまった。私自身カラアカハラはこのとき初めて見た。「ほらね、珍鳥いっぱい☆」とばいかだくんにマインドコントロールをかける。さっきからほらばっかり吹いてるから信用度が50%程度オフにされているに違いない。まぁカラアカハラ見て納得してくれなかったら、寝てる間に口にイカ(できれば生)を入れてやろうと思っていたのだがかなり普通に喜んでくれていたので「口にイカ計画」は延期された。(っていうかやる気かい!?)
 
 午後にはさらに鳥が減り、なんか疲れちゃったので畑の周りで鳥の羽根を拾って歩く。部分的な羽根であれでもないこれでもないと言いながら結局ヤマシギオオコノハズクコミミズクトラツグミクロツグミルリビタキなど10種類以上の羽根を拾った。ほかにも島の北のほうで偶然側溝の中に落ちていたヤツガシラの尾羽を見つけたのは感動だった。ちょっと古い羽根だったので3月か4月の頭ごろに島に来ていたのではないだろうか。

 翌25日は最終日。不完全燃焼しつつもラストスパートだ。(うーん。なんかむなしい。)この日も夜明けから全島くまなく目を血走らせて歩いたがやはり大きく変わった様子は無い。ううーん。さすがは地元のバードウォッチャー。誰も来てないはずだよ、とほほ。今考えればここは東北だもんなぁ。渡りが遅いのは当たり前ぢゃん。海岸沿いの潅木林を歩いていたらアオジの群れがぱらぱら飛んできてその辺に降りたが、一羽だけ目立つ枝に止まったので見てみるとノジコだった。おおお、かわいいー。目が合った瞬間に飛んだ。くっ、お前もか…。

 おそらく年によってはこのくらいの時期でも十分楽しめると思うが今回は運が悪すぎたようです。こうして二人でまた慰めあって東京行きの夜行バスに乗り込むのだった。
 出現鳥78種(航路含む。)
 

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