天野君の鳥だより   
1999年4月29日〜5月4日



'99



4月29日

世間はゴールデンウイークだ。鳥屋さんがもっとも色めき立つ季節、私たちは普通の人が行く探鳥地は人がいっぱいなので人があまり行かないところを攻めようというバクチに打って出てみた。

当時はGWごろ北海道航路に乗るとアホウドリ(もちろんただアホウです)が出るらしい、という情報が流れ始めていたので、そのうわさの真偽を確かめるために、航路に乗ることに決めた。

大阪に住む兄貴分Mさんとの師弟コンビで海に挑むことになった。
Mアニキとは10月にミナミオナガミズナギドリの大群を発見した由緒正しい間柄だ。(どんな間柄だ。)コシジロアジサシもその時見た。今思い出しても「一リットルのよだれ」って感じだ。(時空を超えたギャグ。←?)

まずは航路に乗る前に軽く腕鳴らし(?)に早朝の千葉県に立ち寄りサンカノゴイに会いに行く。土手の上にあがるとすごく近くから「ボッ」という声がするので視線を落とすと、なんと、葦原の手前の水溜りのところに立っているではないか。

「げっ、すぐそこにいるやんけ!」と慌てる私たち二人を尻目にヤツは葦原に潜っていった。いつも遠くの葦原の上を飛んでいるイメージだったので近くを見てなかったよ。今までで一番近くで見たかもしれない。写真を撮りそこなったことを悔やむアニキを慰めるかのように歌うコジュリン・・・。

その後浮島に移動してチュウヒやコジュリンや真っ黒に換羽したツルシギなどを観察。

さらに移動して銚子漁港へ。ほとんどのカモメ類は渡り去った港内にヒレアシシギ類が入ってきていた。真っ赤に換羽したハイイロヒレアシシギの♀は綺麗なんだけど、関西人としては「どこが灰色やねん!」と突っ込むほうが大切だ。(そうなの?)アニキはこの「赤いハイイロ(シャア専用)」を激写しまくっている。そこに知人のKさん(関西人)も来られて一緒に撮影されていた。岸壁の際に立っていると真下まで泳いで来る。

小さくて、なんともかわいい鳥だ。鼻血を出したらハイイロヒレアシシギに垂れてしまう。ちょっとやってみたいがカワイソウなのでやめておこう・・・。ちなみに私の友人にはアオシギに小便をかけた男がいます。(故意ではないですが。)黄色くなってタシギになったらどう責任を取るつもりなんだ。(ならねーよ。)

結局そのへんの砂浜でミユビシギを見たりして夕方まで遊び、夜になってから新木場の港から車ごとフェリーに乗り込んだ。



4月30日

フェリーの中で目が覚める。4時半だ。昨日の夕方まで鳥を見ていた銚子の沖辺りを通過中のはずだ。私の勝手な予測では三陸沖あたりでアホウドリが出るような天の声が聞こえる。(それは病気とも言う。)まだ暗いうちに二人とも甲板に立ち、明るくなりつつある大海原を見つめる。Mさんの目はキラキラしている。負けずに私も目をギラギラさせた。

船には他にも鳥屋さんがのっていたらしく団体さんが次々と現れてデッキはぎゅうぎゅうになった。うーん。人が来ないところを選んだつもりだったのに。ぐはっ。(圧死。)

まずはじめに現れたのはたくさんのオオミズナギドリに混じってオナガミズナギ。あまり東京釧路航路で見ることがなかったのでMさんと二人で「あれ、オナガですよね?」と確認しあった。他にハイイロミズナギ、ハシボソミズナギ、アカアシミズナギなどの常連さんとトウゾクカモメ類、特にこの時期はいつになくシロハラトウゾクが多く、30羽くらい見ることが出来た。もちろんヒレアシシギ類やオーストンウミツバメなどもよく見られる。

この航路がなくなった今改めて思うが本当に鳥の多い航路だった。ほかにもイシイルカなんていっぱい居るし、スジイルカの群れや、100頭以上かと思われるカマイルカの群れにも出会えた。

そうこうしているうちに日も高くなり鳥が少ない海域に差し掛かってきた。朝4時半から午前11時まで一秒たりともデッキを離れなかった私も鳥が少なくなってきたのでMさんに「トイレに行ってきます。」といい、1,2分だがデッキを離れた。

そのとき、時代は動いた。(うそつけ!)

私がすっきりした気分でデッキに戻ると誰も居ない。「なんで?まさか、ねー。」皆様はデッキの最後部にびっちり張り付いている。

「ああ、神様、どうかただアホウだけは勘弁してください。」という願いもむなしく、「どこ行っとってん!ただアホウの成鳥やぞ!!」
「うああーーー!!神様のバカヤローーーーーーッ!!」

ほんっとに俺って神様に愛されてないなぁ。(涙) もう泣くしかない。双眼鏡で最後部から海を見つめるがすでに影も形も見えない。「はぁー、えがったえがった。」みたいな感じで戻ってくるおじちゃんたちの中、一人だけぽつんと時間が止まったような私。日ごろの行いが悪かったのか?

くっそー、あの時拾った10円、交番に届けておけばよかった。(いや、もっと悪いことしてるでしょ?)

その後オオハムやウミガラスなどが登場するがもはや私は生ける屍。Mさんによると私はうわごとのように「ただアホウ、ただアホウ・・・。」とつぶやいていたらしい。少し日が傾いてきて私の目にうっすらと涙が浮かんできた時(ほんとかよ!)目の前をでかい白い物体が通り過ぎていった!

「ただアホウだぁ!!!」

Mさんと同時に叫ぶ。完全な成鳥ではないが距離は近い!でかっ!クロアシよりも二まわり以上でかい!さっきまで廃人だった私もこのカウンターショックでゾンビのごとく甦り無意味に甲板を走り回った。

そのあとヒメクロウミツバメやハイイロウミツバメも見てルンルン気分。(さっきまでのダークネス気分はどこへ?)さらに、前方から漂ってきたなんかのごみの上にアジサシが乗っかってたから見ていると距離が近くなってくるにつれて「え?これ・・・」・・・となり、

「コシジロアジサシの成鳥やんけ!」

というびっくりオマケつき。
以前もこのコンビで10月に幼鳥を見たので、「また見てもーた!しかも成鳥やで!」と喜んだ。「もう、思い残すことはねーや。」とか言って本日2度目のトイレに入った私。そしたらさらに驚くべきことに、本日3度目のただアホウが出たとのこと!

うおおぉぉい!なんでやねん!なんで3回のうち2回が俺がトイレに行ってる間やねん!「ただアホウが見たいときは天野をトイレに行かせろ」といういらんジンクスまでも作ってしまいそうだ。

運が良かったのか悪かったのか・・・。とにもかくにも人生でもっとも忘れられない一日になることは間違いないだろう・・・。



5月1日

今日も4時半から甲板だ。襟裳岬の沖あたりらしい。この海域になると少し鳥相もかわるらしくシロハラトウゾクは見られなかった。代わりにハシブトウミガラスやウミガラス、エトロフウミスズメ、ウトウなどが次々と現れては消えてゆく。私は見逃してしまったがMさんはエトピリカも見たとのこと。グレてやる。

そんな中マダラウミスズメが夏羽になって姿を見せてくれたのはかなりうれしかった。もともとマダラは沿岸で生息しているのか航路ではあまり見られない(と思う。)。フルマカモメの群れの中に白色型が何羽も見られ、岸が近くなってくるにしたがってカモ類が増えてミズナギやウミスズメは少なくなってゆく。

ヒメウがちょこちょこ見られるようになったあたりで一羽だけでかいのがいたのでよく見るとやはりチシマウガラスだった。やや距離はあったが夏羽だったようだ。

ビロードキンクロやクロガモ、ウミアイサが見える頃には陸の建物もはっきり見えてきて、入港直前にはアビも3羽くらい確認できた。

そして北海道に上陸。

まずは近いからってことでシラルトロ沼に行ってみる。かつてここでコアカゲラを見たことがあるので期待したが見られなかった。だがそのへんの牧草地みたいなとこでオオジシギがわりと愛想よく遊んでくれた。

一時間ほどシラルトロで鳥を探した後はひたすら走って網走方面に抜ける。かっとび大阪ナンバーやでぇ。
斜里港とか濤沸湖を周るが特にこれといったものは居ない。まぁシノリガモとか見てもちょっとうれしい関西人やけどね♪時期的に冬鳥が抜けて夏鳥がまだ来てないって感じ。

来てるのはノビタキとオオジシギくらいなもんか。
その後能取岬でコチョウゲンボウが飛んでるのを見たり、オオジシギのディスプレーフライトを見たりして楽しんだ後、海上に夏羽に換羽したアビ類とかアカエリカイツブリがそこそこ居るのを見た。あとケイマフリとかゴマフアザラシなどもいた。



5月2日

朱鞠内湖というところでクマゲラが見やすい、という話があったので暗いうちに討ち入り。明るくなるのを待って捜索するが気配がない。あっ、ニュウナイスズメ。

(夏鳥)あっ、クロツグミ。(夏鳥)春やのう(うっとり。)・・・ってうっとりしとる場合やないがな!おらんでぇー、クマゲラ!

と、そこに現れた一人のおじさんとMさんが何やらお話している。行ってみると最近クマゲラの営巣していた(?)木が伐採されたとか。ぬがぁぁ、そらあかんわ。

しゃーないのでクッチャロ湖まで行き、北に帰る途中のアメリカコハクチョウを観察。

アメリカヒドリ♂もいた。「Oh,ここはアメリカか?」とかボケてみたがアニキは特に突っ込んでくれなかった。

また移動・・・。明日は天売島に渡る予定なので留萌の方に走る。途中コンビニにより、買い物して出てきたらその辺の民家のテレビアンテナにキレンジャクがとまっとった。

稚内近くの兜沼で休憩。運転に疲れたMさんが休んでいる間にキャンプ場を散策していたらキバシリが居た。夏になるとアカエリカイツブリが繁殖のために訪れる沼だが、まだ来ていないようだ。さっきまだ海にいたしね。沼の上をチュウヒが飛んでいた。こいつも北海道では繁殖組だ。どうもピンと来ない。



5月3日

この日は天売島で一泊してウトウを満喫する計画だった。しかし海が荒れているので明日の帰る船が欠航になるらしい。欠航欠航、こりゃ結構。とか言っている場合ではないので(じゃあ書くなよ。)仕方なく日帰りにすることにした。あーあ。ウトウにまみれてみたかった。

航路ではオオハム類がよく出た。ミツユビカモメとか旧・名物ウミガラスも出た。

島について右も左もよくわからんけどとりあえず夕方の船の時間まで鳥を探し回った。アリスイがいたのがちょっとうれしい。繁殖してんだよねー。うーん。渡りらしい鳥はムネアカタヒバリくらいか。あとあまり北海道で見ない鳥ったらツバメをイソヒヨドリ。

帰りに港で北大の野鳥研の知り合いと出会った。聞けば今年は鳥が少ないとのこと。

うん、見ればわかるよ・・・(泣)

「例年の天売はこんなもんじゃないんっすよ!」と言っていた。うーん。神様に愛されたい。



5月4日

天売に泊まれなかったので路頭に迷い、ガンで有名な宮島沼に行くことにした。もとより時期でないことはわかっているが、どんなとこか見ておきたいし・・・。

ピーク期には6万羽ともいわれるガン類の群れが滞在するそうだが、この日は渡り遅れた500羽ほどがそのへんの畑とかに下りていた。そこらへんからキーキーとアリスイのさえずりが聞こえてくる。いつかガンのたくさん居る時期にぜひ来てみたいと思った。

そうして私は飛行機で神奈川県に、Mさんはフェリーで大阪に帰っていった。

いろいろと遠征するたびに自分の運の悪さを実感していきますね。ツライ・・・。

 

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