高原の便り(No.65)
○キノコ狩り
都会の住人にとってはキノコ狩りなどということは全く縁のない他人事でありますが、山里の住人にとっては春の山菜採りと共に、欠かすことの出来ない年中行事であり又楽しみです。
全く雨知らずのこの夏は旱天続きの中で山は乾き、九月に入ってもキノコ発生の気配はなく、私共は今秋のキノコ狩りをほとんどあきらめていましたが、十月に入って一、二度の雨が降りますと、あにはからんや族々と姿を見せ始めました。この辺りでカラマツイクチと呼んでいるハナイクチを始めとして、ホテイシメジ、カヤタケ、マツクリ、クリタケ、キシメジ、ナメコ、ナラタケ、ヒラタケ等々といった例年ではあまり姿を見せぬ珍しいキノコまでが家の周りに発生しました。
この辺りではキノコは塩蔵してたくわえ、年を通じ折りにふれて賞味するのを昔からのしきたりとしていますが、今秋のような当たり年には、その気になればほんの四、五日でこと足りる収穫がありました。十月下旬の晴れた朝には大きな竹篭を背にした村人が、三々五々に我が家の前を通り山へ入るのが見られましたが、ものの三、四時間もすれば満杯にして帰ってくるのが例でした。
キノコの発生は我が家の庭の林でも同様で、朝食前の一時を一寸見回るだけで小さな竹篭では入り切らぬ程の収穫がありましたので、家内などはその整理に追われ、私が持ち帰る都度「一難去って又一難」とぼやくのでした。
それにしても今年の紅葉も又格別に見事でした。全山の木々は様々な赤や黄に染まり、秋日に照り映えるその美しさというものは、とてものことに筆舌につくされるものではありません。十一月も初旬を過ぎた今では、大方の木々はその葉を落とし、カラマツだけが今も尚、相変わらずその落葉を急いでいます。が、その金色に輝くこまかい葉は落ちるというよりは降りそそぐというのが本当です。
かくして我が家は、当分は金色の絨毯の中に立つことになりましょう。
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平成7年1月 『三光鳥便り』第65号
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