高原の便り(No.74)

○レンジャクの集団急死

 今年,平成9年の1月に入ってより,当長野県の各地において,電線や樹木にとまっているレンジャクの群れ(キレンジャク,ヒレンジャクの混成)が,人の目の前で次々と落下して死亡するという異変が新聞のニュースになった。これらの事例は元より私の直接の観察ではないが,あまりにも不可解な事実として,この1月の新年総会においても出席の皆さんに紹介させて頂いた。

 新聞によせられた事例だけでも下記の通り。

 1月14日下諏訪51羽,17日松本4羽,18日岡谷5羽,23日下諏訪22羽,24日25日長野3羽,27日飯島5羽,28日篠ノ井7羽,2月8日小諸67羽,18日飯田10羽と記されている。(レンジャク以外にもヒヨドリ,ウソの少数例あり)

 死因については,急病,農薬,毒物など色々考えられたが,いずれもこれといった決め手はなく,第一報の初1月14日の大量死を調査した獣医師は,解剖の結果「餌(ピラカンサ)の食い過ぎによる窒息,固い路上落下による内蔵破裂による死亡」と推論,新聞にも大きく報じられたが,その後各地の死亡,特に2月8日小諸の大量死の例では体内にほとんど食物もなく,落下場所も林の中のやわらかい土の上であったことから,この推論も一応お預けとなり,死因究明は降り出しに戻ったかたちになった。


○レンジャクの特異な性質

 子供の頃からこの鳥に格別の興味を寄せていた私は,三光鳥便り46号に「流浪の冬鳥,レンジャク」の見出しで想い出話を書いている。会報をお持ちの方は是非御再読をお願いしたい。

 その中で僅か一行足らずであるが,近くの農夫の話として「あの鳥はなあ,急に驚かすと気を失って落ちてくるぞ」と記している。真に受けた私は,初冬の木枯らしの中で一樹に群れて,リーリーとか細い声で鳴き交わしながらゆられているこの鳥を見かけると,秘かにしのび寄って色々とその話を試してみたが,ついぞ一羽として手に入れることはできなかった。大正の終わり,小学4,5年生の頃の想い出である。しかし,話そのものは本当のこととして信じ続けてきた。私にとってのこの鳥のイメージは,初冬の日暮れ頃にのみ群れを作って姿を現す淋しく弱々しい小鳥であって,その頃の流行歌「流浪の旅」のメロディとともにいつまでも忘れることができない。


○私の死因推理と深まるミステリー

 こうした想い出とイメージに基づき,最初に集団急死のニュースに接したとき,私はこれをショック死そのものと考えた。恐らくピラカンサの実を飽食して電線に休息中,突如天敵であるタカの一羽に急襲されたものと判断した。落下の途中で立ち直り飛び去ったものも見られたようである。

 しかし,この考えもその後に相次ぐ各地のニュースによって再考せざるを得なかった。何故ならばそのようなことは極く稀なケースであり,今冬に限って長野の各地でみられる筈もないからである。ならば,それに代わる強烈なショックの要因,それは一体何であろうか,私にはいくら考えても判らない。半ば冗談にであるが,今年に入ってよりこの日本の長野の一部地方に人体には感じない強力な超音波か電磁気のようなものが流れているのではなかろうか。ミステリーは深まるばかりである。

平成9年4月 『三光鳥便り』第74号


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