京都野鳥の会/《会員による海外探鳥記》
オーストラリア漫遊記 岡田 光三
11月28日(火)
13:30 宇治車庫よりリムジンバスで関西空港に向かう。JR宇治から山本さん乗車。案じた渋滞もなく16:00空港着。広い空港内を見物し,ビールで渇きを癒しているうちに集合時刻となる。いよいよ搭乗口へ。例の金属探知ゲートをくぐるとチンと鳴る。元凶は眼鏡のケースだった。免税店で早速ナイトキャップを仕入れる。JL777便,定刻通り離陸。時に21:45。機内は轟音で寝つかれず。
11月29日(水)
予定通り4:23ケアンズ着陸。時計を1時間進める。空港では今回の旅の実現に尽力頂いた岩田さんが出迎えて下さった。ケアンズは数年前から観光基地として発展した町だそうだ。市内に入り海岸で探鳥。満潮のため鳥は遠いがペリカンが群れている。グレートバリアーリーフ観光船,沢山のヨットがもやっている。30℃を越える暑さは冬の日本から来た身にはこたえる。
ケアンズ植物園にゆく。ワライカワセミが電柱の上から我々を迎えてくれた。熱帯雨林の大木にまじって真赤なfiretree(火炎樹),黄色いgolden showerの花が咲いている。園内の小径をゆくと傍らに白黒ツートンカラーの鳩ほどの鳥がチョコチョコ歩いている。人が寄っても恐れる風もない,これがツチスドリ。
向いのCentenary湖では,対岸の木の上に長い首を伸ばしたヘビウ,こちらではペリカンの群れが飛来する。熱帯雨林ということで香取線香を日本から持参したが必要なかった。
昼食後バスはレイクイーチャムに向かう。ガイドのアンドラッシュは日本語が達者で「白いオームがいます。オムシロイネー」と駄じゃれを入れる。国道1号線(オーストラリアを一周する国道で全周するのに車で走り通して1カ月かかる)を20q南下し右折して山中にはいる。山容は京都の山に似て穏やかだが植生は大ちがい,ほとんど広葉樹で針葉樹が少ない。熱帯雨林の中を縫う「いろは坂(アンドラッシュの弁)」を越え尾根に至れば高原地帯で,見渡すかぎりのさとうきび畑の中を走る。牧場では牛が草を喰んでいる。「ウシアツイネ(蒸し暑い)」とアンドラッシュ。
5〜60q走ったろうか,ようやくレークイーチャムのほとりYoungaburra村はRaddisson Hotel到着。ツアーの参加者が多いため,ここは男性陣の宿となる。ホテルの前のFig tree(日本のいちじくとは違い親指の頭ほどの実がなる)には色とりどりのインコやミツスイが集まり賑やかだ。女性と夫婦連れはもうすこし奥のバンガロー風の宿に分宿することになる。
小休止の後,男達は女性陣のあとを追ってそのバンガローへ探鳥に出発。バスは途中までゆくがその先は狭くて入れない。元気な連中はバンガローのオーナーの案内で歩いて行く。途中でアズマヤドリが並べた木の葉のデコレーションや“wait a while palm(ちょっと待て椰子)”の鋭い上向きの刺など説明してくれる。くたびれた男達はマイクロバスでたどり着く。この間約500m。小さなレディー(3歳と5歳)が運んでくれた水で喉を潤す。
バンガローは静かな森の中に見えかくれして点在している。探鳥には絶好の環境だ。黄色い衿飾りをしたツカツクリ,小型のmusky rat kangarooなどが歓迎してくれた。今日から4日間ガイドしてくれるアンディの案内でツカツクリの大きな巣を見る。落葉を集めて巣を作り,ここに卵を産み発酵熱で孵すそうな。森の縁でアンディが呼んでいる。よく見るとすぐ前の木の枝でゴクラクチョウが羽を輪にして求愛ダンス。二羽向き合って右に左に回っている。すごい,すごい。何分華麗なダンスを見せてくれただろう。食い入るように見つめる。本当にラッキー。旅の疲れが一ぺんにふっとんだ。去年NHKがこのダンスを撮りに来たときには40日かかったそうだ。我々は着いた途端に見ることが出来た。オーストラリアに来たかいがあったというもんだ。
夜は男性のホテルに全員集合して夕食。ここは80年前に建てられた木造のホテルで当初はゴールドラッシュだったそうな。上等とはいかないが,なかなか雰囲気のよい建物だ。バーもチーク材の柱がしっかりした田舎の居酒屋風で,町の人たちで賑わっている。ビールが旨い。ベランダで山本さん率いる楽団(ハーモニカ)の演奏を聞きながら飲み直す。
11月30日(木)
午前6時の探鳥出発には集まりが悪い。例のいちじくの木には色とりどりの鳥が集まっているのに。頭は青く羽は緑,腹の赤いゴシキセイガイインコ,頭の赤いクスダマインコ,枝先の巣ではツチスドリが卵を抱いている。
6時半すぎようやく出発。アンディの案内で約1時間付近を巡る。ドライバーのケンも鳥や花が好きで名前を教えてくれるが,聞きなれないものばかりで覚えられない。メジロに似たシルバーアイだけは分かったが。数種のインコ類を飼っている鳥小屋には毎朝野生のインコが寄って来るそうだが今朝は駄目。
朝食後,昨日のバンガロー付近の熱帯雨林の中を探鳥。鳴声はすれども何か分からず。アンディの説明も聞こえない。太い刺が生えた椰子の木やチョットマテの針に度々道を遮られる。その中をワラビーが走る。バスが出るまで岩田さんの案内で林の中を行く。少し開けた草地にさしかかった丁度その時モリショウビンが飛来してくる。太陽の光にコバルトブルーの翼を閃かせて。真正面の枝に止まりこれ見よとばかり,惜しげもなく姿を見せてくれる。ありがとう,モリショウビン。クラクションの音にバスに戻る。
イーチャム湖畔でピクニックランチ。キミミミツスイが餌をねだりに来る。ワンプーアオバトが木陰を歩く。標高500mほどの高原地帯なので,熱帯とはいえあまり暑さを感じない。空気が乾燥しているせいもあろう。湖の水は冷たそうに見えるが数人が泳いでいた。
昼食後ティナルー湖へ。バスが止まった。クイナが道端を歩いている。鳥を見つけるとケンは車を止めてくれる。親切な運転手だ。湖に着くと芝生の上一面に香りの高い白い花が散っている。婦人方は拾い集めるのに忙しい。ヨコフリオウギヒタキが尾をふりふり私にまつわりつく。人なつこい鳥だ。なぜか格好からオハグロトンボを思い出した。
別の湖畔に移動。殺風景な所で水鳥にも見飽きていると,別の一隊が赤いチャンチャンコを着たミソサザイ(セアカムシクイ)を見たと目を輝かせて帰って来た。うらやましい限りだ。こっちは図鑑で我慢する。
夕食は村のレストラン。スープの後のディッシュがなかなか出てこない。しびれをきらす人もいるが,まあいいじゃない,日本じゃないんだから,ゆっくりゆこうよ。食後一服していると,片隅の楽器らしきものに目をつけて町田さんが出てきた。見殺しにはできないと加勢が上がる。天秤棒に紐を結んだベース,はりぼてに毛糸を付けたウクレレ,乾いた瓜の様なマラカスで,例のズッコケトリオの演奏が始まる。髭のコックもアコーディオンをひっさげてバンドに加わった。ブラボーの声鳴りやまず。
12月1日(金)
カーテンフィグツリー見学に行く。木の枝に鳥が落とした実が芽生え,根を下ろし成長して親木を締め付け,貸した庇に母屋を取られたかっこうで親木が倒れ,イチジクの木独り大木となったのだそうだ。だから締め殺しの木と云われている。10mもある高さから垂れ下がった根は何千本あるだろうか。何十人手をつないだら取り巻けるだろうか。
バーリン湖へ。火焔樹の花が美しい。売店ではコーヒーで一服する人,トイレを借りる人,探鳥に精を出す人と様々。ここの樹齢千年のFig treeの巨木はまともな成長をしていた。湖畔に出る。バン,オオバン,カワウなど馴染みの水鳥がいる。でもオーストラリアの鳥はどれも人を恐れない。
昨日の所に戻ってランチ。手作りふうのケーキが美味しい。頭上ではワライカワセミが哲学者のように瞑想にふけっている。一向に笑いそうもない。少しは笑い声を聞かしてくれたらどう。
100qほど先のモスマン(開拓者の名に由来)に向かう。走りだしたらアッという間にスコール。たちまち先がけぶる。雨季の始まりだそうだ。でもまもなく晴れる。トイレ休憩の時にケンがヨタカを見つけた。樹上に眠って木と見分けがつかないものをよく見つけたものだ。
サトウキビ運搬用の軽便鉄道の線路がながながと続く。砂糖は輸出第一位だけあってこの線路は総延長千qに達するとか。モスマンの町の椰子並木は金持ちが自費で植えたが,その金は不正で儲けたもので金持ちは国外逃亡中だそうだ。バスは幹線を離れて山間に向かう。やがて今日の宿舎Silky oaks Lodgeに到着。二人づつ分かれてそれぞれのロッジで休む。林間に独立した一戸建てのロッジで外見より内部が立派。わが家より広いのではないかと感心する。
夕食はポートダグラスのシェラトンホテル。豪華なレストランだが私には田舎町の食堂が似合う。大きな池のようなプールの傍らにはかがり火が焚かれ,椰子の木の向こうで波の音がする。ロマンチックな気分を漂わせているためか日本人の新婚さんが多い。あちらからもこちらからもシャッターを切ってくれと頼まれる。
12月2日(土)
昨夕は南十字星を楽しみにしていたが曇って見えなかった。このところ昼は晴れても夜は曇る。出る時間も3時過ぎとかでは諦めざるを得ない。
朝6時ロッジの近辺を探鳥。細長いへちまのような巣の周りを腹の黄色いキバラタイヨウチョウが飛び回ってい,巣に出たり入ったり。江口さんが長いレンズを向けてねばっていたがうまいこと撮れたかしらん。
バスでレインフォレスト・ハビタート(熱帯雨林動植物生育地)に赴き朝食。オウムがテーブルまで上がって餌をねだる。朝日が当たったテントの屋根には鳥の影が写っている。
コアラと共に記念写真を撮る人,インコに餌をやる人を後目に広い園内を巡る。腹が雄は赤,雌は緑のインコの番など色とりどりのインコやオウムが飛び交う。木の陰では火食鳥が悠々と歩いている。オオコウモリが枝を伝って餌台にやって来る。ヤイロチョウがいるというので行ってみたがチラと姿を見せただけで飛び去った。残念。もう出発時間だ,急がなきゃ。
ポートダグラスへ昼食に向かう途中アンザックパークで自由行動。車中で見つけた,西部劇に出てきそうなパブへ一目散。ビールが安くて旨い。なんだかカウボーイが出てきそうな気配。外はまぶしい。
昼は日本食。久しぶりに日本酒を一杯。この辺りでも日本人観光客が増えてきたのだろう。
長旅の上暑い毎日で皆さんお疲れのようなので,ディントリー川のクロコダイルウォチングを取り止めホテルに戻る。
シャワーを浴び一休みしてから構内を散歩する。一隅に眠っていた親カンガルーの腹のあたりがムズムズしたと思うと子供が顔を出した。親が草を食べると子供も腹の中から首を伸ばして草を食う。写真を撮ろうと近寄っても逃げない。こっちを向いて撮ってくれというポーズ。驚かさないようにフラッシュをたかずにシャッターを切る。
12月3日(日)
今朝は探鳥なし。海沿いのキャプテンクックハイウェーを走り珊瑚礁の海を見渡す展望台(Rex Lookout)で小休止してクランダ高原へ。
蝶の聖域見学。大型の瑠璃色の蝶が帽子に止まる。雌は褐色で雄より大きい。交尾の時鳥に狙われると雄を背負ったまま飛んで逃げるのだそうだ。そのほかにも日本では見られない種々の蝶が飛び交っている。
クランダマーケットでは原住民のアボリジニがブーメランやその他の細工物を売っている。長い木製のホルンが低音を響かせている。一隅では鰐の手で作った孫の手を売っている。日本ではクロコダイルハンドでなくグランドサンズハンドというと説明してやった。弘法さんの縁日のオーストラリア版というところか。アボリジニのダンスショウ見物後高原列車の客となる。渓谷の上を何度となくカーブしながらガタゴトとしばらく行くとバロン(男爵)の瀧,デヴィルズ池を見渡す展望所で写真撮影休止。雄大な眺めに乗客は皆歓声をあげる。汽笛と共に再び走り出す。深く切り込んだ谷を見おろしながらトロッコ列車は進む。巨岩の上を幾条にも分かれて流れ落ちる瀧の下で列車は60゜の急カーブ。10数両つないだ列車の最後尾まで見える。右に左に首を回しているうちに,曲がりくねった狭い路床をどんどん下る。100年前の建設ではさぞ大変な難工事だったろう。遥か下方に町が見えて来た。一帯の緑に囲まれた農村だ。やがて空港の横を抜けケアンズの町に入る。駅ではケンが笑顔で迎えてくれる。
パラダイスパームスでケアンズ野鳥の会の人たちと焼肉を囲みながら交流会。80歳のエルザ,会長のエレノア,ケン夫妻,現地の日本人等大勢の人たちと話が弾む。アンドラッシュの奥さんは日本人だとか。道理で日本語がうまい。
夜も更けた。名残を惜しみながらケアンズインターナショナルホテルへ。11階の窓からケアンズの夜景を楽しむ。
12月4日(日)
空港へ。ケン,ありがとう。ここであなたとお別れだ。3時間でシドニーへ。シドニーは夏時間のため時計を1時間進める。11時市内観光出発。ミセスマッコリーの椅子に座り,100年前夫人が故郷英国を偲んで眺めたであろう入江を望見する。市内第一の観光名所オペラハウスへ。やってきた証拠に犬の真似をして印を残す。
オーストラリア最後の日とあって,昼食後は皆さん買物に精を出す。
ディナークルーズにて夕食。残ったオーストラリア通貨を全部はたいてワインを注文する。美しいシドニーの夜景を眺めながらの一杯はことのほか美味しい。ショーが始まった。踊り子が敬意を表しに来たので町田さんは御満悦。ほてった顔を冷やしにデッキに出ると新婚の御婦人二人。中にはさまれて暫く歓談する。私も御満悦。
12月5日(日)
免税店でウィスキーを仕入れ帰国の途につく。空から眺めた珊瑚礁の海に思わず歓声をあげた。今回はグレートバリアーリーフに行く時間はなかったが,機上から眺望できたので満足した。赤道を越える頃歯が痛みだした。肉も,野菜も,パンも固かったためだろうか。オンザロックでまぎらわす。
8時間の飛行で関西空港着。大阪は寒かった。
オーストラリアは新しい世界で,最も古いものでも200年たらずの歴史しかない。でも自然は豊かで美しい。人も鳥も動物も人なつこい。またいつの日か訪れたい。アンドラッシュ,ケン,アンディ,エルザ,また会いましょう。岩田さん,有難うございました。
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